クリエイトバリュー中村宏      「弱者の情報戦略」

竹田ランチェスター経営「弱者の戦略」を実践するための「弱者の情報戦略」を考察します

天災から人災を発生させないために

今回の震災、津波被害、原発事故で被災された方々に、
重ねてお悔やみを申し上げるとともに、一日も早い復興を祈っております。


福島原発への事故報道や専門家による意見表明に関して、
非常に強く感じたことがありますので、書かせていただきます。


現在でも人の立ち入りが禁止されているチェルノブイリを引き合いに出して、
チェルノブイリから学べ」のような記事を書かれた専門家がいます。


まるで福島には人が住めなくなる危険があると言っているような
必要のない過剰な心配を煽る意見だと感じました。


事故対策のために関係者が命がけの努力をし、
ただでさえ周辺の住民が大きなショックを受けている時に、


なんのために、今、チェルノブイリを引き合いに出すのでしょうか?


一般の多くの方には、放射線への「被ばく」というものに関する
多くの専門知識はありません。あるのは「不安」だけです。


中には、毒物による汚染や病原体への感染と、放射線被ばくの
明確な区別がついていない方も多くいらっしゃいます。


このような現状の中で被災者に対する人的差別につながりかねない
意見表明や報道の仕方は止めるべきだと思います。


今回の福島の原発の事故はチェルノブイリとは全く違っていて、
高レベルの放射性廃棄物が爆発などで飛散したトラブルではありません。


正確には、各地域の土壌のサンプルなどを採取して、
放射線のスペクトル分析などを行わないと、
どのような放射性物質がどのくらい拡散しているかは断定できませんが、


周辺地域への影響はかなり限定されたものである可能性が高いです。
放射性物質が体中に張り付いているような状況ではないし、
仮に少し付着していても手洗いやシャワーなどで簡単に除染できるレベルです。


それと、放射線被ばく以外にも、
以下の2つの報道に関して無用な不安を煽る問題を感じています。


1つは、ボウ酸散布による臨界防止の話題です。
現在、各原子炉には制御棒がきちんと挿入されており、
核分裂反応の臨界は抑えられています。


核燃料の集合体に含まれるウラン235の濃縮度では、
JOCで発生したウランの自然臨界という現象は起こり得ません。


もともと原子炉内でも、燃料棒の位置や中性子束の密度を調整しないと
臨界に達することはできないほど、
燃料ペレット内のウラン濃縮度では連鎖反応は起こり難いのです。


従って、臨界に至らないまでも熱核反応を完全抑制するために
中性子を吸収する働きのあるホウ酸を注入することは
それなりに意味があることかも知れませんが、


チェルノブイリ」になる心配はないにも関わらず、
今回のトラブルがきっかけで、
連鎖反応が暴走的に起こる危険性があるかのような報道は、
大変問題があると思うのです。


それと気になる2つめの報道です。


2号機はプルサーマル発電を行うために、通常の燃料とは異なり
MOXと呼ばれる特殊な核燃料を使っています。


MOXはウランのみならず、
核分裂で発生した使用済み燃料からプルトニウム239を抽出して濃縮し
これをウランと混ぜて燃料ペレットに加工し再利用するものです。


ところが、このプルトニウムは化学的に猛毒であって、
皮膚の傷口などから人体に入り得る上、
人の造血機能に多大な影響を与えるので慎重な取り扱いが必要です。


今朝、このプルトニウムが2号機の燃料として使われているので
注意が必要との報道をした報道機関と専門家がいましたが、


通常の軽水炉の使用済み燃料(炉心にあるものを含めて)の中にも
ウラン238が中性子を吸収した結果
生成したプルトニウム239が多量に含まれています。
(MOX燃料の材料になるものです)


プルトニウムは何も2号機だけの問題ではないのです。
しかも、現在、ノーコントロールになっている冷却系の問題が解決しないと
燃料集合体を安全に回収することができません。


報道されているリスク自体は正しいのですが、


関係機関が命がけで対策をしている中で、
なんで、今のいま、この問題を報道して不安を煽るのか
理解できませんでした。


周辺地域の避難範囲を早急に見直す根拠として意見を表明されるなら、
そういう主旨で情報を発されるべきです。


そうでなければ、一般の方々の心理的不安を煽るだけで
いたずらに社会的問題を誘発し拡大させることにしかなりません。


専門家が思いついたままリスクを意見表明されるのはすごく迷惑です。
きちんと社会的な意義と目的を明確にされた上で、
目的にあった「やり方」で情報発信をしていただきたいと思います。


クリエイトバリュー 代表 中村 宏