クリエイトバリュー中村宏      「弱者の情報戦略」

竹田ランチェスター経営「弱者の戦略」を実践するための「弱者の情報戦略」を考察します

壁に耳あり、後部座席に目あり

このブログを読んでくれている読者の中には、
機密管理と言っても、しょせんはセキュリティ活動の一環なのだろうと、
そう思われる方がいるかも知れません。


先日も「『機密管理』という言葉の意味について」というテーマで、
情報セキュリティ管理との考え方の違いを書きましたが、


こんなことを文書で書くよりも、
大変説得力のあるシーンに出会いましたので、
実例を用いて「なぜ、機密管理という考え方をしなくてはならないのか」を
お話します。


1.数日前に出会った光景


私は福岡市の東区に居住しているので、JRを使って博多の街に行きます。
その日は、ある会社を訪問した帰りで午後8時ごろに上りのJRに乗りました。


前席の窓際に座っているサラリーマン風の男性(一見、管理職風)が、
しきりに書類を見ています。
かばんの中から取り出しては次から次に繰り返し、
自分の顔の前に書類を持ちあげてじ〜っと見つめてるんです。
そう、私が座っている後ろの席から「丸見え」なんです!


ですが本人、構うことなく、まるで社内で仕事しているような感覚です。


「○○事業所長会議資料」とか「○○活動実施スケジュール」とか、
この企画のために提案をしてくれた「○○会社からの提案書」とか、
普通の会社なら「極秘」扱いになるようなものばかり。


あまりに重要な機密情報ばかりだし、あまりに無防備なので、
一言注意してあげようかと思いましたが、結局、やめました。


こういう人は自分の不用心さを棚に上げて、
「のぞき見をしている」と思うに違いないと、こう思ったからです。


2.どんな危険があるか

このような事態に遭遇した時に、
悪意を持ってこれを犯罪に利用しようとすると
様々なことが考えられます。


密かに写真撮影をして競合他社に「売る」とか、
本人の自宅をつきとめ本人を「恐喝する」とか、
さらに会社そのものに証拠を突きつけ「脅す」とか。


このように、まさか、と思われるような犯罪に
巻き込まれる恐れがあります。
著名な会社であればあるほど、
犯罪者から見た「旨み」は大きくなるので注意が必要です。


このような行為はうっかりではなく「機密漏洩」そのものであり、
絶対に起こしてはならないことをしっかり自覚させなければなりません。


3.原因は啓発の方法(効果)にあり


見えてしまった書類からわかる限り、
この男性の会社は西日本では名前の通った有名な会社です。
会社を挙げてのセキュリティ対策がばっちり行われているはずで、
当然この男性は、セキュリティ教育を何度も受けているはずです。


本日も、社外に機密書類を持ち出すための手続きは
きちんと踏んで来たと思われます。
なのに、一体どうしてこんな不用心な行動を取るのでしょうか?
このような「機密を漏洩させる」行動をしていることに
なぜ気付いていないのでしょうか?


悪意があるようには見えなかったので、こう思いました。
きっと、「公共の場で機密書類を開いてはならない」ことを
規定するルールがなく、
守るべき規範がないから気付き難いのだと。


こう考えると会社主導で行うセキュリティ対策の限界が見えて来ます。
ルールで規制するという性悪説の限界と言っても良いでしょう。
いちいち細かいことまでルール化などしていられないし、
各職場ごとに気をつけるべきことは違っているし、
さらに時間とともに漏洩のリスクは常に変化しているからです。


あるレベルまでルールで規制をするにしても、
それから先は各現場の担当者の判断力に頼らざるを得ないのです。


良い方を変えると、ルールの厳守にばかり意識が偏ると、、
「身の回りのリスクを監視する」という行動こそが
本質的には重要であることを忘れてしまうということです。
そして、このような機密漏洩同様の事態がいつでも起こり得ます。


このケースでも、
社外に機密書類を持ち出した以上は、
ルールなどなくても、自分が周囲に注意をしてリスクを監視し、
自分が責任を持って管理する必要があることを自覚して
必要な行動を取らせるべきなのです。


残念ながら、このような問題行動は大変起き易く、
現状のセキュリティ管理の実態ではないかと思います。


4.再発防止のための啓発活動のあり方


ここで、間違っても以下のようには考えないでください。
「会社はやるべきこと(教育)をしているのだから、
後は本人の自覚や資質の問題だ」と。


これは啓発活動の結果、社員の意識向上につながっているかの効果を
きちんと把握できていないことへの言い訳です。開き直りでもあります。
啓発の効果が出ていないのなら、
出るように啓発のやり方を工夫して改善しなくてはなりません。


ですが、「あるべき論」や「気をつけようという精神論」では、
具体的な方法がわからないので啓発できません。

まして、より厳しいルールを新たに作って規制をするなど、
仕事の進め難さから心理的な抵抗を増すだけで実際的ではありません。
いずれにしても、ルール以外のことに注意が行かないのでは
どうしようもありません。


結論を言うと、「与える教育」だけでは無理なのです。
100回教育をしたって期待通りには行動しないと思います。


人間は、「自分が気付き、納得したこと」しか行動できないからです。
いくら多くのことをインプットしても、
あるいは罰則をちらつかせて脅しても、
気付きが伴わなければ自発的に行動するようにはならないのです。


だから「自ら考えさせる」啓発活動が必要なんです。
ここだけは「やらされだ」と言われようが何だろうが、
徹底的に「考えさせる」ことです。
自分にとってルールの目的を実現するためには何をすべきかを、
徹底的に話し合い、考えさせる場を設けることが必要なのです。


「〜をする」という建前だけではなく、
「具体的にどのような行動を取るか」を自ら考えさせることを通じ、
ルールに対する理解(目的、ねらい、リスク)をさらに深め、
自分たちが取組むべき具体的な課題に気付くことになるからです。


今回のケースでは、
社外への持ち出し中に警戒しなくてはならないリスクと、
危険を防止するための行動を、事前に話し合っておくことが
それに当たります。


私が言う機密管理では、このような活動がスタートになります。
会社のセキュリティ教育の場で「考えさせる場」を設けても構いません。
とにかく自分の頭で考えさせることが基本です。
そしてその自分で考えるための「視点やポイント」を提供するように
事務局が支援すれば良いのです。


こうすれば多くの角度から、
参加者の気付きに直結した啓発活動ができるはずです。


「機密管理マインドBLD」の4つの学習ツールは、
いずれも「自ら考えさせる」ための啓発教材です。
30分のグループミーティングを基本として、
短時間で実施できるように作られています。


是非、この考え方を参考にしていただければと思います。


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